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「手縫い」ということ
2022/03/20 11:38
伊豆のお針子無生庵のブックカバー・手帳カバーはすべて手縫い仕立てで仕上げております。どうしてそんなに「手縫いにこだわるのかと申しますと「手縫い」という工程は、大変心の安定あるいは安寧をもたらす効果があるからです。「運針」、文字通り針を運ぶこと、一針、一針、針をもって縫い上げて行くことです。、この工程は「写経」をすることと、とても似ています。「写経」も一文字、一文字経を写す行為で、非常に尊い工程です。できあがったものをみると、気の遠くなるようなお経の巻物などを美術館でご覧になられた方も多くおいでになると思いますが、これも一文字ずつ心を込めて書いていく作業の積み重ねなのですね。
現代を生きる私共の生活環境はさまざまで、ブックカバーも100円ショップなどにも、とても素敵な商品が沢山売られています。何もそれから比べたらはるかに高価な伊豆のお針子無生庵のブックカバーをわざわざ買うまでもない・・・と言われればそれまでなのですが、そこには、創り手がこだわる理由があるからです。前述した「こころ」の問題です。
現代人はこころを病みやすい環境にとても速いスピード感を持って生きております。現在も長引くコロナ禍にあって、多くの人々か、眠れないとか、落ち着かない、心配、不安、など不定愁訴の症状に悩み、病院を訪れる数が大変増えていると聞きます。
昭和の戦後に小津安二郎さんという黒澤明さんと当時人気を二分した有名な映画監督がいらっしゃいました。小津監督の映画が静としたら黒澤監督の映画は動という評価をされていたようです。「静」の小津映画は日本の暮らしと日本人の佇まいをとても自然に表現されていた作品だったように思いますが、必ず生活のなかに「針仕事」が描かれているのです。このころのお母さんは「夜なべ」といって日々の家族の衣類の繕い物など日常の仕事として暮らしの中に取り入れていたのです。ご自分のお母さんのそうした後姿を思い出す方もいらっしゃると思います。だからこうだと決めつけるわけではないのですが、とても落ち着きがあり、人としての芯の部分がしっかりとした趣の登場人物の女性たちに心ひかれたものでした。人との距離のおきかた、言葉遣い、立ち居振る舞い、これが日本の戦後数年しかたっていない頃の映画であることにも驚きますが、まさしく日本の良き姿が自然に描かれた作品として、今を生きる若い女性達にも好まれてビデオで鑑賞されているようです。
写経も針仕事も「無心になる」という点、共通点がありますが、無心になれる時を持つなり時をつくることの大切なことをお届けすることも「伊豆のお針子無生庵」の大事な仕事の一つであります。オーナーである私は社会起業家としてのスタンスをもつクラフト作家です。あわただしい現代人の暮らしの中にそんな手間暇かけるひとときが、心にもたらす安寧をあの不便な時代を美しく生きた日本人の精神から少しでも引き継いでまいりたいと思っております。
タンスの中におばあさんやお母さん、おじいさんやお父さんの残した着物が一枚や二枚は必ずおありになるでしょう。古着屋さんにもっていってもらう前にどうかご自身で手縫いでブックカバーなど作ってみてはいかがでしょうか。
創り方などは本も売っているし、ユーチューブなどにもあるでしょうし、それこそ自分で考えて作ってみてください。
先祖の供養にもなるし、リユース効果にもなるし、なにより愛着が湧きます。「伊豆のお針子無生庵」は売るばかりでなく、このような暮らしの提案をこころがけております。
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